【法人設立趣旨】
「漫画村」事件は、電子書籍市場に関わる人々にとって記憶に新しいものですが、海賊版の被害は今も継続して発生しており、第二、第三の漫画村が登場してくる危険性はまだまだ高い状況です。
出版界ではこの状況に対応すべく、著作権者、電子書店事業者の協力を得て「STOP!海賊版」キャンペーンを展開するとともに、電子書籍の正規配信サービスであることを示す「ABJマーク」(Authorized Books of Japan=公認された日本の本)を制定し、読者が正規のサービスを認識できるよう画面上に掲示する活動を進めてまいりました。
このような海賊版対策活動は、短期間単発的に行えばよいというものではなく、長期間持続的に行うことが必要です。これまで「STOP!海賊版」キャンペーン活動は、出版広報センター(*1)内に設置された海賊版対策WGが担ってきました。また、「ABJマーク」付与活動は、日本電子書籍出版社協会(*2)とデジタルコミック協議会(*3)との共同事業として行われてきました。一方これらの枠組みは緊急措置として組成されたため、長期間持続的に活動することに不向きな面がありました。そこで恒常的な組織構築が必要であるとの認識に基づき、直接的な被害をうける著作権者、電子書店事業者及び出版社といった関係者の間で、協働して新たに「一般社団法人ABJ」を設立しようという気運が生まれ、2020年4月24日の設立理事会にて本法人が設立されました。
しかしながら、海賊版対策はいわゆる権利者側の活動だけでは不十分です。電子書籍の流通に重要な役割を果たす通信事業者を含むインターネット関連事業者に、フィルタリング、検索等における適切な施策をお願いする必要があります。また利用者(読者)に対する啓発活動を持続的に行っていくうえでも、インターネット関連事業者の協力が不可欠です。
海賊版対策は、一義的には著作権侵害対策であり、著作権者側による適法性・違法性の判断がその前提となります。同時に、その対策はインターネットの自由、読者の自由を一定程度制約することにもつながります。このため、特に権利者側による違法性判断は、その判断基準の妥当性について、有識者およびインターネット関連事業者の知見に基づく、適切な監査が必須であると考えております。この趣旨を実現するため、当法人においては、法人から独立した機関としての「監査委員会」を設置します。
(*1)出版広報センター 日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本電子書籍出版社協会、日本出版インフラセンター、自然科学書協会、出版梓会、日本児童図書出版協会、大学出版部協会、日本楽譜出版協会、一般社団法人ABJの出版10団体で構成
(*2)(*3)日本電子書籍出版社協会(一般書電子書籍を出版する出版社29社で構成)とデジタルコミック協議会(デジタルコミックを出版する出版社等41社(賛助会員含む)で構成)はその後統合され、2022年2月をもってデジタル出版者連盟となった。
【代表理事挨拶】
デジタルコンテンツの普及によって、世界中の人々が手軽に大量の作品を楽しめる時代になりました。しかし、それは同時に、コンテンツの違法複製が容易になったということを意味しています。
日本が生んだコンテンツの著作権侵害行為は国境を越えて拡大し、その手口は多様化し巧妙化しています。デジタル違法複製(海賊版)の蔓延は、著作権者はもちろん、その商流に関与する人々を精神的にも経済的にも苦しめているのが現状です。私たちはコンテンツの健全な利用の仕方をあらためて考え直し、今の時代に適した常識や良識を世界に定着させていく必要があります。
当法人には、出版のデジタルコンテンツに関わる著作権者を始め、出版社、電子書籍流通事業者、インターネット関連事業者、学識経験者、法律の専門家といった皆さまにお集まりいただきました。当法人を起点にして、デジタル海賊版に関する最新情報を共有し、実効的で具体的な対策を議論し、著作物の利用をめぐる新しい英知を編み出すと同時に、それを広く社会に定着させていきたいと考えています。
皆さまのご指導ご鞭撻、そしてご支援をよろしくお願いいたします。
一般社団法人ABJ代表理事 森田 浩章